寝具メーカーの西川株式会社が、18~79歳の男女1万人に行ったアンケートによると、睡眠の質に「満足している」と答えた人は34.5%。逆に「非常に不満」「かなり不満」「少し不満」と答えた人は合わせて65.5%に上り、全体の47.2%が「不眠症の可能性が高い」という結果が出ました(2024年7月調査)。
日本人の平均睡眠時間は世界で最下位というデータもあり、ストレスフルな現代社会では、不眠症は国民病とも言われています。
そこで、これまで2万人以上の睡眠に悩む人を治療してきた睡眠専門医・白濱龍太郎氏の著書『「寝つきが悪い」「すぐに目が覚めてしまう」人のお助けBOOK』より、睡眠の質を改善するために今日からすぐできることを5つピックアップしてご紹介します。
1 就寝2時間前にお風呂に入り、深部体温を上げよう
睡眠に大きく関わっているのが「深部体温」(体の中心部の体温)。日中、起きているときには、深部体温が高温になって活動を支えていますが、夕方にピークを迎えたあと夜にかけて下がり始めます。人間の脳には、体温が下がると眠くなる性質があるのです。
ところが、不眠に悩んでいる人の中には、こうした深部体温の高低差がついていないケースも多く見られます。深部体温の高低差がつかず、眠気がなかなか訪れないからこそ、意識的に深部体温を上げることが必要に。
そのためにおすすめしたいのが、適温のお湯に入ること。お湯に入ると、入らないときに比べて深部体温が上がります。一度入浴によって深部体温を上げておくと、その後時間が経って深部体温が下がってきたときに、眠気も誘発されやすくなるのです。
湯船につかって体を温める入浴によって深部体温を最大に引き上げ、そこから1時間半から2時間後に寝る態勢を整えて布団に入れば、心地よい眠気が訪れるでしょう。なお、熱いお湯に短時間つかるより、ぬるめのお湯にゆっくりつかるほうが効果的です。最低10分はお湯につかるようにしてください。
2 あお向けで「大の字」になり、体の熱を放出させよう
睡眠の質を上げるためには、眠りに入るときにも深部体温を下げるよう意識した姿勢をとることが大切。
そこでおすすめしたいのが、あお向けで大の字姿勢で寝ること。体が圧迫されないので血行がよくなり、手足の先からスムーズに熱が放出され深部体温が下がります。手足を上下左右に広げて広く体を支えるので、体に熱がこもりにくくなるのです。逆に、手足をくっつけた姿勢で寝ると、わきや股に汗をかきやすくなり、熱がこもって深部体温が下がりにくくなります。
眠っている間は姿勢が崩れてしまうかもしれませんが、眠り始めはできるだけ大の字姿勢を心がけてください。足元にクッションを敷き、少し足を上げて寝ると、血行がよくなります。
ただし、いびきをかきやすい人、睡眠時無呼吸症候群の人やその兆候が見られる人は、あお向けだと気道が狭くなりやすいので、横向きで寝るほうがいいでしょう。呼吸が楽になる姿勢をとることを何よりも意識してください。
3 寝る直前はオレンジ色の光でリラックスさせよう
自然な眠りを誘う作用をもっているメラトニンは、夕方から暗くなってくると分泌が始まり、暗くなればなるほど分泌が進みます。 眠りに悩みを抱えている方は、夜中にコンビニなど、1500~1800ルクスの光がある、照明が明るい場所に長くいるのは避けたほうがいいでしょう。
夕食をとってからテレビやスマホを見るときは、ブルーライトカットの眼鏡をかけるか、ブルーライトカットモード(ナイトモード)に切り替えて使ってみてください。
光の色も睡眠と関係してきます。 リラックスできるのは、一般的に色温度の低い色です。暖かみのあるオレンジ色であれば心地よい眠りに導いてくれるでしょう。眠りにつく直前には、暖色系の明かりに切り替えてみてください。睡眠に入ってからは、部屋を真っ暗にして寝るのが理想的です。
4 電車でうとうとしても我慢しよう
みなさんは電車やバスで座っているとき、つい、うとうとして眠ってしまうことはありませんか?
眠くなるのは、耳の奥にある前庭器官が感じる「前庭感覚」が影響しているとされています。 前庭感覚は重力やスピードなどから頭の傾きや体のゆれを感知する感覚で、上行性網様体賦活系と呼ばれる脳の神経系統に刺激を与えます。体が大きくゆれると強い刺激を与えて脳を目覚めさせる反面、小刻みなゆれだと与える刺激が弱くなり、脳の目覚めを促しません。
電車に乗っているときに感じるゆれはリズミカルで小さいため、上行性網様体賦活系の働きが弱まり、眠気を感じるようになるのです。
しかしながら、どんなに心地いいからといっても、寝ようとしたり、座ってからすぐに目を閉じて眠る態勢に入ったりするのはおすすめできません。それが仕事帰りの電車なら、ふだん活動している時間に眠ってしまうと本来眠るべき時間帯に眠気が訪れない可能性が高くなるからです。
せめて帰りの電車だけでも居眠りをしないよう我慢しましょう。そうすることが睡眠の質を高めることにつながるはずです。
5 朝食に味噌汁を飲んで睡眠ホルモンの分泌を促進
睡眠の質は、日々の食事によっても変わってきます。なかでも重要なのが朝食です。
朝食をきちんととると、必要なエネルギーが体に取り込まれ、消化器官が活動を始めて脳が働き、体温が上がります。 朝からバイタリティあふれる活動をすれば、夜には脳と体が疲れを回復するために休息するので、自然と眠りにつくことができるのです。
質のよい睡眠をとるためには、朝食で何を食べるかも重要です。そこでとってほしいのが、トリプトファンという必須アミノ酸。トリプトファンは、体内に入ると、精神を安定させる働きのあるセロトニンというホルモンに変わる重要な栄養素ですが、人は必要な量のトリプトファンを体内で生成することができないので、食品からとる必要があります。
このトリプトファンが多く含まれている食材は大豆製品や赤身の魚、牛肉や豚肉、卵、乳製品、ナッツ類など。そのため、朝食のメニューは、ごはんと、納豆、干物の魚、卵などを一緒に食べるのが良質な睡眠にとってベストといえるでしょう。
ただ、どうしても時間がなかったり、食欲がわかなかったりしてしっかり朝食がとれない日には、せめてみそ汁1杯だけでも飲むようにしてください。大豆食品であるみそには、トリプトファンがたっぷり含まれていますから。
以上、5つのコツをご紹介しました。
睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量は9~10歳をピークに下がり続け、40代になるとピーク時の6分の1に!ずっと同じことをしていては、不眠が進んでいくばかりです。できることから今すぐ始めてみませんか。
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著者プロフィール
白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)
医学博士、産業医。医療法人RESM新東京・新横浜理事長。筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院統合呼吸器病学修了。東京共済病院、東京医科歯科大学附属病院を経て、2013年に「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を開設。睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの睡眠にまつわる病気を適切に診断するために、最新の医療機器を導入し、日本睡眠学会認定施設として専門医療を提供している。著書・監修書に『1万人を治療した睡眠の名医が教える 誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』、『こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群』(日東書院本社)など多数。