「健康経営」のメリットとは? 今後、ますます重要性を増す理由 【経済産業省 山崎牧子さんに聞く】

    ヘルスケア
    メンタルヘルスケア
投稿日:2025年01月21日 10:17

近年、「健康経営」という言葉が注目を集めています。深刻な人手不足が叫ばれる中、企業の行く末をも左右するという「健康経営」。その重要性や国内での現状、そして2016年からスタートした「健康経営優良法人認定制度」について、経済産業省ヘルスケア産業課の山崎牧子さんに伺いました。

企業が従業員の健康に配慮することは、今や当たり前に

「健康経営」とは、「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性などを高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」。それによって、従業員の活力が向上し、組織が活性化し、また企業内でのコミュニケーションの増大にもつながるので、イノベーション創出の源泉になり、ひいては企業の業績や価値の向上にもつながることが期待されています。

「第1回の健康経営度調査が始まった2014年当時は、健康と経営という言葉はほとんど結びついていませんでした。健康という言葉は単体だと、なんだかお説教くさく感じられたりもするのですが、健康×〇〇と掛け合わせていくことで、いまある事業やコンセプトを健康にシフトしていく、それによって新しいビジネスや施策につなげられないかと、チームであれこれ議論していました。

この『健康経営』という言葉は、私たちが造語として生み出したわけではなく、大阪ガス株式会社の産業医を長く続けてこられた岡田邦夫先生が、すでに登録商標をお持ちだったものです。施策を検討していく中で、岡田先生をお訪ねし、健康経営の普及推進のために当省も商標を使わせていただけることになりました」

10年前頃というと、「ブラック企業」という言葉や概念が、世間一般に広がってきた時期にあたります。今でこそ、働き方改革が進み、企業が従業員の健康に配慮した経営をすることが当然あるべきこととして受け止められていますが、当時はそうした危機意識を持つ人はまだまだ少なかったのです。

従業員と企業がwin-winの関係になるために

「健康経営」を行うメリットは、それぞれの企業により異なります。しかし、多くの企業で共通して聞かれる話としては、「従業員が生き生きと働けるようになった」「社員が辞めなくなった」「会社の雰囲気が明るくなった」などということだそうです。
「個人的な見解ですが、効果として大きいのは、経営側と従業員、組織と個人の関係が良好になるということかなと思います。健康は誰にでも共通の関心事で、そこにフォーカスすると、組織対個人ではなく、人間対人間という思いやりをもった接し方になります。ある経営者がおっしゃっていたのは、従業員への愛情表現として非常にわかりやすい仕組みである、ということ。誰でも自分が大事にされているところで、頑張りたいと思いますよね」

経済産業省では、2016年に「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。健康経営度調査は


① 経営理念:まず経営トップが、企業理念に基づき、社内外へ健康経営の方針などを発信する


② 組織体制:経営層や専門職、保険者等が参画する組織体制の構築を行う


③ 制度・施策実行:従業員構成や健康課題に応じた具体的な制度や施策の計画を策定し実行


④ 評価・改善:やりっぱなしではなく、取り組みの評価やさらなる改善を行う


という4つのフレームワークで構成されています。

そのフレームワークに沿って、優良法人としての認定を受ける際には、大規模法人部門は「健康経営度調査」へ回答、中小規模法人部門は「健康経営優良法人認定申請書」を提出します。


なお、中小規模法人部門への申請にあたっては、加入している保険者が実施している健康宣言事業への参加が必須。申請から認定までの流れやスケジュール、認定要件や認定申請料などの詳細は「ACTION! 健康経営」のポータルサイト( https://kenko-keiei.jp/ ) で確認できます。

事業内容や従業員の状況に合わせたさまざまな施策が

健康経営優良法人の認定を受けようとする企業は年々増加しています。今年も大規模法人は10%、中小規模法人は17%増加しており、着実に注目度が高まっているといえます。

「基本的なフレームワークは決まっていますが、③の実際に何を行うかは、本当に各社さまざまです。施策の例としては、健診費用の補助や健康に関するセミナーの開催、ジム費用の補助やウエアラブルデバイスの支給などですが、

例えば、高齢の女性従業員が多い工場のある企業では転倒防止や骨粗しょう症対策、IT関連の企業ではデスクワークが多いので腰痛・肩こりへの対策、テレワーク中心の企業では社員が孤立することやメンタルヘルスの問題を抱えていることへの対応など、従業員の特性により何に取り組むべきなのかは変わってきます。また、メンタルヘルス対策はどの企業も悩まれているところで、こちらは業種を問わず重視されています」

調査票への回答を通じて、最初に自社の立ち位置を把握する、自社の強みや課題がどんなものかを見つけ出し、自社の従業員の健康課題や、その課題への対応を通じて解決したい経営課題に向き合っていくことが求められています。

フィードバックシートで開示されている他社情報を参考に

この「健康経営優良法人」の認定にあたり、さらなる情報開示や取り組みの推進を促すために、回答法人には各施策の偏差値などを記載した評価結果(フィードバックシート)が個別に送付されます。このフィードバックシートの開示には現在約2500社が同意し、その内容はすべて『ACTION! 健康経営』のサイトで公開。同業界や従業員構成が似ていたり、ベンチマークしている企業がどんな施策を実行しているのかについて知ることができるようになっています。

また、各社ごとではなく、全社統一のエクセルデータも公開されているので、例えば就活に臨む学生が残業時間や年休の消化率など、自分が関心のある項目で偏差値の高い企業、低い企業などをソートしてランキングすることなども可能。株式会社日本経済新聞社が就活生と転職者にとったアンケートでは、求職者が企業に求めるトップの項目は「健康を保ちながら働けること」で、健康経営を行っているかどうかが選定の決め手になると答えた割合は6割に上っています。

「まさに企業の通信簿ともいえますね。毎年偏差値に注目されすぎて、上がった、下がったと汲々としてしまう、などという声をいただくこともありますが、他社がどんな取り組みをしているのか、事例紹介なども具体的にたくさん掲載されているので、ぜひ企業の方には、より効果的な健康経営を実践していくための参考にしていただきたいと思っています」

フィードバックシートの開示は、健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」し、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的に評価を受けることができるように、それをさらなる取り組みや改善につなげるという目的で行われているのです。

また、認定された法人のうち大規模法人部門 の上位500社には「ホワイト500」、中小規模法人部門 の上位500社には「ブライト500」、その下位の1000社には「ネクストブライト1000」(今年度より新設)の称号が与えられます。

「認定は年度ごとなので、毎年申請していただくことになります。他社がよりよい取り組みをすれば、上位からはずれてしまうということも起こります。年々レベルが上がって厳しい、と伺うこともありますが、毎年同じことをやっていればいいのではなくて、自社にとって本当に意味があることを実施できているかを、検証、確認する機会にしていただきたいとお伝えしています」

この他、上場企業を対象に、経済産業省と東京証券取引所が年度ごとに「健康経営銘柄」を選定しています。ホワイト500に入る大規模法人から、各業種1社を原則に、2023年度は52社が選ばれています。 「投資に関心のある人やよく知っている人でないとご存じないかもしれません。健康経営銘柄は中長期的な観点で企業価値向上を重視する投資家にご紹介したい銘柄として選定していることもあって、選定翌日に株価がはね上がる、という性質のものではありませんが、健康経営の各業種トップ企業として、選定された企業は皆さん同日づけでプレスリリースなどを出されています」

いざ、健康経営に取り組むときのハードルは?

従業員がたくさんいる大企業ならともかく、中小企業の場合は、経営リソースが限られる中で、従業員の健康課題の優先順位が低く、取り組みが進みづらいケースも。中小規模法人部門の申請でも、初年度に全部で70問くらいある質問票に回答していかなければなりませんが、担当者は社内に1人だけという企業にとっては、それがハードルになっているようです。

そんなときは、他社のフィードバックシートを参照するほか、健康経営コンサルティング企業のアドバイスを受けることを検討してもよいかもしれません。

経産省では、2016年より、健康経営アドバイザーの育成・認定するための研修プログラムを東京商工会議所に委託し、現在約2万人が認定を受けています。より専門的知識をもち、企業の支援を行うエキスパートアドバイザーは約2700人。また、『ACTION! 健康経営』のサイトには、健康経営コンサルティング自己宣言企業のリストも掲載されています。

これは、事業者自らが、提供する健康経営コンサルティングサービスの質を担保することを自己宣言する制度です。2024年12月現在で90社以上の企業が宣言しています。こうした企業のサポートを得ることも考えてみてはいかがでしょうか。

働く人を大事にする「健康経営」はますます重要性を増す

今後日本の人口が減り続け、中でも労働生産人口は2050年までに30%減少するとの予測もありますます。どんどん働く人が少なくなっていく一方で、日本は国際的に見ると人への投資額が少ないというデータもあるのだとか。

「人的資本経営の土台として、人を大事にすることが従業員に伝わりやすい健康経営は、これからますます重要性を増していかざるをえません。人的資本経営の進め方には、もちろんいろいろな方策があるとは思いますが、健康経営はどの企業でもまず取り組んでいただきたい土台の部分です。

従業員が健康で働くことができるということを、経営者が明確なメッセージとして発し、そのための施策を実行することが、今後すべての企業にとって価値のあることになるだろうと考えています。

むしろ、健康経営をやっていない企業が淘汰されていく時代になるのではないかとおっしゃる有識者もいらっしゃいます。

健康経営の取り組みが社会や経済の基盤として広く浸透していき、いずれは当たり前になっていく社会を目ざしたいと思っています」

インタビュー動画も視聴できますので、こちらからご視聴ください。

インタビュー動画視聴はこちら

●お話を伺った方●

プロフィール写真:山崎 牧子 さん

山崎 牧子 さん(やまざき まきこ)

経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課課長補佐

  • ヘルスケア
    コンテンツ

    Health Care
  • メンタル
    ヘルスケア
    コンテンツ

    Mental Health Care
  • 家事サポート
    オフタイム
    コンテンツ

    Housework Support Off Time
  • 目標設定
    コンサルティング

    Goal Setting Consulting
  • 研修

    Training
  • カンファレンス
    セミナー

    Conference/Seminar
  • 健康宣言報告書

    Health Declaration Report